デジタル技術の進展が加速する現代、企業の競争力を維持・強化するためには、デジタルトランスフォーメーション(DX)が不可欠です。

しかし、日本企業はDXの必要性を認識しているものの、具体的な取り組み方や進捗状況の評価が難しいといった課題があります。そこで経済産業省は、DXの成熟度を客観的に評価し、企業が自社のDX状況を把握して次のステップを明確にできるようにするための「DX推進指標」を公表しました。
この指標に基づき、自己診断することで、企業は段階的な改善が図りやすくなります。

この記事では、DX推進指標を用いた自己診断の進め方・注意点・DX人材の育成・目標設定について解説いたします。

DXとは?

「DX」は「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)=デジタルによる変革」の略で、デジタル技術を活用して企業や組織のビジネスモデルや業務プロセスを根本から変革し、競争力を強化することを指します。
単なるITの導入にとどまらず、データ活用や業務効率化を通じて、新たな価値創出や顧客体験の向上を目指します。

なぜ、「X」かというと、「X」は交差するという意味から「変革」を意味する符号として広く使われ、これにより「DX」と簡潔に表現されています。具体的には、IoT、AI、クラウド、ビッグデータといった技術を使って、企業の迅速な意思決定や柔軟な経営を可能にすることがDXの目的です。

デジタル化の3段階

段階定義
デジタイゼーションアナログデータをデジタルデータに変換すること
デジタライゼーションデジタル技術を活用して業務を効率化すること
デジタルトランスフォーメーション(DX)デジタル技術を使い、ビジネスモデル全体を変革すること(単なる改善ではなく、競争力強化や新たな価値を創出すること)
デジタル化の3段階

デジタル化の3段階として、①デジタイゼーション、②デジタライゼーション、③デジタルトランスフォーメーション(DX)があります。
そして、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、デジタル技術を活用してビジネスモデル全体を変革し、新たな価値を創出する(3つの中で最も上位)段階を指します。

1. デジタイゼーション(Digitization)

項目 内容
定義 アナログデータをデジタルデータに変換すること
目的 データの保存・検索の効率化と、情報の可視化や管理の容易化
具体例 紙の書類をPDFに変換、写真のデジタルスキャン、手書きの記録をデジタル入力するなど

2. デジタライゼーション(Digitalization)

項目 内容
定義 デジタル技術を活用して業務プロセスを効率化すること
目的 作業の効率化やコスト削減、データに基づいた意思決定の向上
具体例 ワークフローシステムの導入による承認作業の自動化、ERPシステムによる在庫管理の最適化

3. デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation, DX)

項目 内容
定義 デジタル技術を活用し、ビジネスモデル全体を変革し、新たな価値を創出すること
目的 競争力の強化、顧客体験の向上、業務の柔軟性と迅速性の向上
具体例 サブスクリプションモデルの導入、AIによる顧客データ分析でのパーソナライズ対応、オンラインサービスの提供

DX推進指標を使った自己診断の進め方とステップ

自己診断を進めるには、DX推進指標に基づき、企業の現状を各項目ごとに評価していきます。基本的なステップは以下の通りです。

  1. step1:
    DXのビジョンと目標を明確化
  2. step2:
    各評価項目を自己評価する
  3. step3:
    ベンチマークと自己診断を比較する
  4. step4:課題・優先順位を明確化し、アクションプランを策定

Step1. DXのビジョンと目標を明確化

まず、自己診断フォーマットの入力をする前に、DXによって企業が実現したい目標やビジョンを、経営者自身が明確にします。

DXのビジョンと目標を明確化する際は、単にAIやデジタル技術の導入を目指すのではなく、顧客視点で新たな価値を創出し、ビジネスモデルや企業文化を変革することを重視して検討します。また、従業員が変化を受け入れ、柔軟に対応できる文化を醸成するような体制を整備することも大切です。

DXのビジョンと目標の具体例(製造業の場合)
  • オンライン(クラウド)での受発注システムを導入し、取引先と、各アイテム毎の生産量を共有できるようにする。
  • IoTやAIを使った最新設備を導入し、(単なる品質向上・効率化だけでなく)今まで対応できなかった複雑な形状の製品や高精度が求められる特殊製品を製造可能にし、新しい市場や顧客を開拓する。
  • IoTやAIを使って生産工程の進捗をリアルタイムで可視化し、取引先と納期や品質を随時共有できる仕組みを構築する。
  • これにより、効率的かつ透明性の高い取引が可能となり、顧客企業の信頼と満足度を高められます。

Step2. 各評価項目を自己評価する

まずは自己診断フォーマットに入力する前に、「(ア)成熟度レベル」、「(イ)キークエスチョン・サブクエスチョンと構成要素」を解説します。

(ア)DX推進指標における成熟度レベルを理解する

成熟度レベル概要
レベル0(未着手)DXに関心がないか、まだ具体的な取り組みに至っていない。
レベル1(一部での散発的実施)部門単位で試行的にDXを進めているが、全社的な戦略は不明確。
レベル2(一部での戦略的実施)一部の部門で全社戦略に基づいた推進が行われている。
レベル3(全社戦略に基づく部門横断的推進)全社戦略に沿って部門横断的な推進体制が構築されている。
レベル4(全社戦略に基づく持続的実施)定量的な指標を用いて継続的に実施し、適応力が高まっている。
レベル5(グローバル市場におけるデジタル企業)グローバルで競争力を発揮し、デジタル技術で競争優位を確立している。
DX推進指標における成熟度レベル(6段階)

「DX推進指標」における「成熟度」は、企業がデジタル技術を活用して業務やビジネスモデルの変革をどの程度達成しているかを6段階で評価する基準です。成熟度は「未着手」から「グローバル市場での競争優位性を確立したデジタル企業」に至るまでのレベルに分類され、企業が現状の位置と目指すべき次の段階を認識するための指標となります。

それぞれの自己診断項目で、「現在のレベル」と「3年後目標とするレベル」を回答する構成になっています。

(イ)キークエスチョン・サブクエスチョンと構成要素を知る

「DX推進指標」では、DX推進状況を評価するためのキークエスチョンとサブクエスチョン、合計40ほどの問いが設けられています。

種類説明
キークエスチョン経営者が自ら回答することが望ましい項目で、DX推進において経営トップが直接関与し、戦略的な意思決定を行うための質問。
サブクエスチョン経営者が経営幹部や事業部門、DX部門、IT部門などと議論を行いながら回答する項目で、部門横断的な連携と具体的な実行体制を築くための質問。

次の表の薄い水色背景の項目が「キークエスチョン」、白背景の項目が「サブクエスチョン」です。

出典:「DX 推進指標」とそのガイダンス

キークエスチョンの構成

主なキークエスチョンの項目と概要は次の通りです。

項目 説明
ビジョン デジタル技術を活用して顧客視点で新たな価値を創出するビジョンを明確に共有しているか。
経営トップのコミットメント DX推進において経営トップが積極的に関与し、リーダーシップを発揮しているか。
マインドセットと企業文化 全社で挑戦や改善を推奨する文化があり、失敗を学びとして受け入れる風土を持っているか。
推進・サポート体制 専任組織や役割分担が整備され、各部門が連携してDXを進める体制が整っているか。
人材育成・確保 デジタル人材の育成や採用が進み、DXを推進するスキルを持つ人材が確保されているか
事業への落とし込み DXのビジョンが具体的な事業計画やアクションに反映され、実行されているか。
ビジョンの実現の基盤としてのITシステム構築 データ活用や業務効率化を実現するためのITインフラが整備されているか。
ガバナンス・体制 DX推進における意思決定や責任体制が明確化され、適切に運用されているか。

(ウ)自己診断フォーマットへ入力する

「(ア)成熟度レベル」、「(イ)キークエスチョン・サブクエスチョンと構成要素」を把握したら、自己診断フォーマットへの入力を進めましょう。およそ40項目について、「現在」と「目標(3年後)」の成熟度レベル等を自己診断します。

出典:DX推進指標のご案内 自己診断方法

定量評価項目について

政府はDX推進を進めるため、ものづくり補助金等で「デジタル枠」等を設けたり、DX自己診断フォーマット提出済であれば補助金審査で加点する、といった取り組みが行われています。但し、過去の加点条件としては、定量指標において「人材欄」を全て記載すること・自社HPにDX取り組み方針を掲載することが条件でした。

出典:「DX 推進指標」とそのガイダンス

HP掲載事項(補助金加点項目)
  • A.経営の方向性及びデジタル技術等の活用の方向性の決定
    a.デジタル技術が社会や自社の競争環境にどのような影響を及ぼすかについて認識、その内容について公表
    b.上記a.を踏まえた経営ビジョンやビジネスモデルを策定・公表
  • B.上記A.の経営ビジョンやビジネスモデルを実現するための戦略を公表
  • C.上記B.の戦略を推進するための体制・組織(CIO(最高情報責任者)、CISO(最高セキュリティ責任者)の配置、担当部門の配置等)を示し、公表

Step3:ベンチマーク(他社や業界水準)と比較する

ベンチマークとは、同業他社や業界の中での標準的な指標や優良企業の実績を基準に、自社の現状を比較・評価することです。

この際、自社が他社と比べて特に遅れている領域を特定し、そこにリソースを集中的に配分して改善策を講じることが効果的です。また、他社との差が大きい領域については、具体的な改善施策(例えば、デジタル基盤の強化や組織体制の見直し)を検討します。

デジタル庁管理課のIPA(情報書類推進機構)のサイトから、ベンチマークデータの説明資料がダウンロードできますので、手順に従って、自社と比較していきましょう。なお、ベンチマークレポートは、自己診断フォーマットを提出した企業のみが取得することができ、一般公開はされていません。

ベンチマークの進め方(例)

手順内容
1. 自己診断結果とベンチマークの比較自己診断に基づいて各評価項目での自社の成熟度レベルを確認し、業界のベンチマークと比較します。
2. 項目ごとに差異を分析各構成要素(経営戦略、技術基盤など)について、ベンチマークとの差を確認し、特に改善が必要な領域を特定します。
ベンチマークの進め方

Step4. 優先順位を設定し、アクションプランを策定

診断結果とベンチマーク分析により明らかになった自社の強みや課題を基に、DX推進の具体的なアクションプランを作成します。

計画には、短期・中期・長期の目標を設定し、実現可能なステップを明確にするとともに、必要なリソース(人材、資金、技術)を洗い出し、優先順位をつけた対応策を整理します。そして、KPI(重要業績評価指標)を設定し、進捗を測定できる体制を整えます。

また、自己診断は、一度行うだけでなく、定期的に実施することで、自社の取り組みが目標に近づいているかを確認することが大切です。市場環境や技術の変化を踏まえ、最新の業界標準や競合他社の動向と比較することで、新たな課題や成長機会を特定します。

フィードバックは全社的に共有し、必要に応じて戦略やアクションプランを柔軟に見直します。このサイクルにより、DX推進が持続的かつ効果的に進む体制が整います。

手順内容
3. 差異を埋めるアクションプランの策定項目ごとにベンチマークとの差を埋めるための具体的な改善策を設定し、優先順位をつけて計画を立てます。
4. KPIの設定と進捗管理改善に向けたKPIを設定し、進捗を定期的に管理することで目標到達度を測ります。
5. 継続的なベンチマーク更新とフィードバック業界の水準や競争環境が変化するため、ベンチマークを定期的に見直し、再度自己診断と比較して改善を継続します。

自己診断における3つの注意点

1. 経営層と現場の一体化(経営層だけでやらない、現場に丸投げしない)

DXは単なる技術導入ではなく、企業のビジョンや組織文化の変革を伴うプロセスです。

経営層はDXのビジョンを示し、現場にその意義を共有することで、全社的な理解と協力が得られます。現場からの実務的な課題やフィードバックを受け入れ、具体的な改善策に反映させることで、経営戦略と現場実行の整合性が図れます。この連携がDXの実効性を高める鍵となります。

2. 現状把握を具体的に行う

自己診断では、現状の課題や強みを具体的に把握することが重要です。

指標に基づいてデータや業務プロセスを定量的・定性的に評価し、具体的な状況を把握します。単なる感覚的な評価ではなく、得られたデータを活かすことで、的確な改善ポイントを明確にできます。これにより、的確なDX推進が可能になります。

3. 定期的な見直しと改善サイクルの構築

自己診断は一度行うだけでなく、定期的に見直しを行い、改善サイクルを構築することが重要です。市場環境や技術の進展に応じて診断基準や評価結果をアップデートし、新たな課題や成長機会を特定します。診断結果を全社で共有し、継続的に戦略やアクションプランを修正することで、持続可能なDX推進が実現します。

DX人材の育て方

DXを効果的に推進するには、DXを支える人材の育成が欠かせません。特に、中小企業でも育成できる具体的な方法や、目標設定のポイントを紹介します。

ポイント 内容
デジタルリテラシー教育の強化 社員がデジタルツールやデータ分析に慣れるため、基本的なデジタルリテラシー教育を導入。
オンライン講座や研修を活用し、幅広い社員がスキルを習得できる環境を提供する。
デジタルスキルの向上 最新のIT技術やデータ活用スキルを習得するための専門研修や実践プロジェクトを実施。
外部講師を招いたトレーニングや認定資格取得を支援する。
ビジネス視点の醸成 デジタル技術を活用した事業価値創出を目的としたケーススタディや経営戦略の学習を行う。
顧客課題の解決や新しいビジネスモデル提案を視野に入れた教育を提供する。

さいごに

DX推進指標を活用した自己診断は、中小企業がDXの現状を把握し、課題解決と競争力向上への道筋を明確にする重要なステップです。

経営層と現場の一体化、現状把握の具体性、定期的な見直しと改善サイクルの構築が鍵となります。また、国の補助金や中小企業支援制度を活用し、目標設定やDX人材の育成に取り組むことで、実行計画の成功率を高められます。顧客視点を重視し、全社的な文化醸成を進めることで、持続可能なDX推進が実現可能です。

弊社では、国の中小企業支援制度(補助金等を含む)の活用サポートを行っています。引き続き、役立つ情報を発信して参ります。