2017年頃から2020年2月頃(コロナ前)まで、中小企業庁が運営する「価格交渉サポートセミナー」の講師として、下請法(下請代金支払遅延等防止法)の理解促進と、具体的な価格(値上げ)交渉手法のセミナー講師として登壇させていただきました。また、専門家として、中小企業様個別にサポートして参りました。
当時セミナーは、西日本を中心に担当させて頂いており、名古屋、岐阜、福井、大阪、兵庫、岡山、福山、広島等の主要都市で登壇させていただきました。そして、個別に希望する会社様へ専門家として訪問し助言したり、顧問先企業様の価格交渉サポートもさせて頂きました。
元々、10年以上前の会社員時代に、製造メーカーの営業課長として取引先への価格(値上げ)交渉を主導的に行った経験があり、相手に納得して貰える書類づくりと相手との交渉(トークフロー)を準備し実行したことで、実務を担う方の大変さも理解はあると思っております。
この記事はシリーズ第1弾として、価格交渉の前段階として、知っておきたい下請法の概要を解説しております。また、2024年の法改正についても解説いたします。
下請法が適用される会社
下請法が適用されるか否かは、親事業者(発注する側)と下請事業者(仕事を引き受ける側)の資本金の金額に基づいて決まります。
親事業者の資本金が大きく、下請事業者の資本金が小さい場合に、下請法の適用対象となりますが、業務内容が、①製造委託・修理委託(物品の製造など)か、②役務提供(サービスの提供など)かによって資本金区分が異なります。
(ア)製造委託・修理委託などの場合
以下のどちらかに該当すれば、下請法が適用されます。
- 親事業者の資本金が3億円以上、下請事業者が3億円以下
- 親事業者の資本金が1,000万円以上3億円未満、下請事業者が1,000万円未満
(イ)役務提供(サービスの提供)などの場合
以下のどちらかに該当すれば、下請法が適用されます。
- 親事業者の資本金が5,000万円以上、下請事業者が5,000万円以下
- 親事業者の資本金が1,000万円以上5,000万円未満、下請事業者が1,000万円未満
親事業者の4つの義務
1 書面の交付義務(第3条)
2 支払期日を定める義務(第2条の2)
3 書類の作成・保存義務(第5条)
4 遅延利息の支払義務(第4条の2)
以下に、それぞれ解説していきます。
①書面の交付義務(第3条)
1 書面の交付義務(第3条)
親事業者は,発注に際して下記の具体的記載事項をすべて記載している書面(3条書面)を直ちに下請事業者に交付する義務があります。
注:「公正取引委員会 親事業者の義務」より
親事業者及び下請事業者の名称 ・発注日、発注内容、納期 、受領場所、金額、代金の支払期日、手形の場合は手形満期など
※義務違反には50万円以下の罰金規定あり(下請法第10条)
3条書面に記載する必要がある項目を押さえ、注文書という形で発行するのが一般的です。
3条書面に対応した見本(サンプル)は98ページ~106ページに掲載されています。
条書面に対応した見本(サンプル)は98ページは98ページ~106ページに掲載されています。
3条書面の目的と重要性
「3条書面」は、一般的には注文書という形で発行されます。
取引内容や条件を文書で明確にすることで、下請事業者が不利な取引条件を押し付けられないようにするための重要な手段です。
下請法が適用される会社間の取引で、書面を発行せず、口頭での注文を行うと下請法違反となり、親事業者は行政指導や罰則の対象となる可能性があります。
②支払期日を定める義務(第2条の2)
2 支払期日を定める義務(第2条の2)
親事業者は,下請事業者との合意の下に,親事業者が下請事業者の給付の内容について検査するかどうかを問わず,下請代金の支払期日を物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日以内でできる限り短い期間内で定める義務があります。
注:「公正取引委員会 親事業者の義務」より
下請代金の支払期日を物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日以内でできる限り短い期間内で定めることが必要です。
注意点としては、物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をした日)であり、親事業者が物品等を確認した日や、検収した日ではないことです。
なお、支払期日は下請事業者に明示され、契約書面や発注書などで提示される必要があります。
支払期日を定めることの目的と重要性
下請事業者が長期間にわたって代金の支払いを待たされることを防ぎ、資金繰りの悪化を防ぐことが目的です。
特に、中小企業や零細企業は、資金繰りが厳しい場合が多く、支払の遅延が経営に重大な影響を及ぼす可能性があります。
③書類の作成・保存義務(第5条)
3 書類の作成・保存義務(第5条)
親事業者は,下請事業者に対し製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした場合は給付の内容,下請代金の額等について記載した書類(5条書類)を作成し2年間保存する義務があります。
注:「公正取引委員会 親事業者の義務」より
3条書面の内容及び、実際の納期、変更ややり直しをさせた場合は内容と理由、金額変更時は増減額と理由、有償支給材料等と相殺した場合は相殺後の額、遅延利息支払時は額と利息支払日
※義務違反には50万円以下の罰金規定あり(下請法第10条)
3条書面の内容に加えて、実際の納期、変更ややり直しをさせた場合は内容と理由、金額変更時は増減額と理由、有償支給材料等と相殺した場合は相殺後の額、遅延利息支払時は額と利息支払日を記載した書類(5条書面)を作成し,2年間保存することが必要です。(下請事業者に提出する義務ではありません)
5条書面の目的と重要性
5条書面の作成・保存義務は、親事業者が下請事業者との取引内容を明確にし、それを証拠として保存することで、公正な取引が行われていること、違反していないことを証明するためのものです。なお、保存方法は、紙の書類だけでなく、電子データとして保存することも可能です。
④遅延利息の支払義務(第4条の2)
4 遅延利息の支払義務(第4条の2)
親事業者は,下請代金をその支払期日までに支払わなかったときは,下請事業者に対し,物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,下請事業者が役務の提供をした日)から起算して60日を経過した日から実際に支払をする日までの期間について,その日数に応じ当該未払金額に年率14.6%を乗じた額の遅延利息を支払う義務があります。
注:「公正取引委員会 親事業者の義務」より
親事業者は、下請事業者に対して、下請代金を支払う際に、下請法で定められた支払期日を守る義務があり、物品等を受領した日(サービス提供が完了した日)から、60日以内に設定されなければなりません。
もし、親事業者がこの支払期日を守らずに遅延した場合、親事業者はその遅延に対する遅延利息(遅延損害金)を下請事業者に支払う必要があります。
遅延利息の支払義務の目的と必要性
遅延利息の支払義務は、親事業者が支払期日を守るインセンティブを与え、下請事業者の権利を保護することを目的としています。
11の禁止行為
①受領拒否の禁止(第4条第1項第1号)
1 受領拒否の禁止(第4条第1項第1号)
親事業者が下請事業者に対して委託した給付の目的物について,下請事業者が納入してきた場合,親事業者は下請事業者に責任がないのに受領を拒むと下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
受領拒否とは、注文を受けた製品やサービスが完成しているにもかかわらず、親事業者がその物品を受け取らないことを指します。
たとえば、下請事業者が製造した製品を納品(サービスを提供)したにもかかわらず、親事業者が「もう必要ない」「注文はキャンセル」といった理由で受領を拒否し、代金を支払わないケースが該当します。
但し、「正当な理由」として認められるケースには、受領拒否には当たりません。
-
- 製品やサービスに重大な欠陥や不備がある場合:例えば、製造された製品が品質基準を満たしていない(不良品)、または契約内容に違反している場合は、親事業者は受領を拒否することができます。
- 契約と異なる納品が行われた場合:例えば、契約で定めた納期に間に合わなかった場合や、指示された仕様と異なる製品(又はサービス)が提供された場合も、親事業者は受領を拒否することができます。
受領拒否の目的
親事業者が不当に下請事業者からの物品や役務の提供を受けることを拒否することを防ぐために設けられています。親事業者が受領拒否したら、下請事業者は製造した製品(又はサービス)を廃棄(没)にせざるを得ず、多大な経済的損失を与える可能性があります。最悪の場合、その影響で資金ショートして倒産する可能性もあります。そのため、下請事業者を保護するために禁止行為とされています。
②下請代金の支払遅延の禁止(第4条第1項第2号)
2 下請代金の支払遅延の禁止(第4条第1項第2号)
親事業者は物品等を受領した日(役務提供委託の場合は,役務が提供された日)から起算して60日以内に定めた支払期日までに下請代金を全額支払わないと下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
これは、4つの義務の2つ目(②支払期日を定める義務(第2条の2))と4つ目(④遅延利息の支払義務(第4条の2))と重なります。
③下請代金の減額の禁止(第4条第1項第3号)
3 下請代金の減額(第4条第1項第3号)
親事業者は発注時に決定した下請代金を「下請事業者の責に帰すべき理由」がないにもかかわらず発注後に減額すると下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
契約締結後、親事業者が何らかの理由を付けて不当に減額することで、下請事業者に経済的な不利益を与える行為を防止するために禁止された事項です。
例えば、①当初の注文内容(契約内容)にはない追加の作業をさせたにも関わらず追加料金を支払わなかったり、②業績不振により契約締結後、減額させたり、③振込手数料を下請事業者負担にさせることが挙げられます。
ただし、合理的な理由がある場合は適用されません。例えば、以下の例が挙げられます。
-
- 契約違反や品質不良:下請事業者が納品した製品に欠陥があったり、契約違反があった場合
- 当初の契約内容に基づいた変更:契約書に。特定の条件下で代金を変更する事項が含まれている場合
減額禁止の目的
減額禁止の目的は、親事業者がその優越的地位を利用して、下請事業者に不当な負担を強いることを防ぐことです。特に、中小企業や個人事業主が下請事業者となる場合、親事業者の要求に逆らいにくく、経済的な弱者となりやすい状況にあります。立場の弱い下請事業者が、下請代金を減額されることで泣き寝入りしないようにするために禁止されています。
④返品の禁止(第4条第1項第4号)
4 返品の禁止(第4条第1項第4号)
親事業者は下請事業者から納入された物品等を受領した後に,その物品等に瑕疵があるなど明らかに下請事業者に責任がある場合において,受領後速やかに不良品を返品するのは問題ありませんが,それ以外の場合に受領後に返品すると下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
親事業者が正当な理由なく下請事業者が納品したもの(サービス)を返品することを禁止する事項です。
下請事業者は、親事業者の注文内容通りに製造した物品(サービス)や提供した場合、代金を受け取る権利がありますが、親事業者が正当な理由なく返品を行うと、その代金を回収できなくなり、下請け事業者が多大な損失を被る可能性があります。
例えば、以下の場合、当該禁止事項に該当します。(正当な理由がない返品はNG)
- 販売が不振だから返品する:親事業者が発注した商品の売れ行きが悪かったことを理由に一方的に返品する行為。
- 一方的なキャンセル後の返品:既に下請事業者が製造した商品(サービス)を納品直前にキャンセルを希望。しかし、既に製造済みのため納品したところ、受け取っては貰えたが、後日返品する行為。
但し、以下の場合は、当該禁止事項に該当しません。(正当な理由がある返品はOK)
- 製品やサービスに重大な欠陥や不備がある場合:例えば、製造された製品が品質基準を満たしていない(不良品)、または契約内容に違反している場合は、親事業者は返品することができます。
- 契約と異なる納品が行われた場合:例えば、契約で定めた納期に間に合わなかった場合や、指示された仕様と異なる製品(又はサービス)が提供された場合も、親事業者は返品することができます。
返品禁止の目的
受領拒否の禁止と同じく、親事業者が不当に下請事業者からの物品や役務の提供を受けることを拒否することを防ぐために設けられています。
親事業者が正当な理由なく返品したら、下請事業者は多大な経済的損失を与える可能性があります。
そのため、下請事業者を保護するために禁止行為とされています。
⑤買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)
5 買いたたきの禁止(第4条第1項第5号)
親事業者が発注に際して下請代金の額を決定するときに,発注した内容と同種又は類似の給付の内容(又は役務の提供)に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることは「買いたたき」として下請法違反になります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
買いたたきとは、親事業者が下請事業者に対して、製品(サービス)の市場価格や製造コストに照らして不当に低い価格で取引を強要する行為を指します。
例えば、以下の場合、買いたたきに該当します。
- 市場価格を大きく下回る取引価格を強要する:何らかの理由をつけて、一般的な市場価格よりも明らかに低い価格での取引を強要する行為。
- コストを無視した販売価格を強要する:製品を製造(サービスを提供)するのに、かかる原材料費や人件費などを明らかに下回る価格での取引を強いる行為。
過度な価格競争を強要し、最も低い価格を提示した業者とだけ発注する姿勢を見せ、実質的に赤字になる価格で納品を強要する行為。
買いたたきの目的
親事業者から、実質的に赤字になる価格での納品を強要されたら、下請事業者は資金繰りが悪化し、多大な経済的損失を与える可能性があります。
そのため、下請事業者を保護するために禁止行為とされています。
⑥物の購入強制・役務の利用強制の禁止(第4条第1項第6号)
6 購入・利用強制の禁止(第4条第1項第6号)
親事業者が,下請事業者に注文した給付の内容を維持するためなどの正当な理由がないのに,親事業者の指定する製品(自社製品を含む)・原材料等を強制的に下請事業者に購入させたり,サービス等を強制的に下請事業者に利用させて対価を支払わせたりすると購入・利用強制となり,下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
物の購入強制・役務の利用強制の禁止とは、親事業者が下請事業者に対して、指定する物品を購入させたり(サービスを利用)させることを強制する行為を指します。
例えば、下記の場合が、物の購入強制・役務の利用強制に該当します。
- 親事業者が販売する物品の購入(サービスの利用)の強制:親事業者やその関連会社の製品を使わないと(サービスを利用しないと)契約しないとして、製品の購入を強制する行為。
- 指定業者からの購入の強制:親事業者が指定する業者から、市場価格と比較し明らかに高い価格の原材料の購入を強要する行為。
一方、以下の場合は該当しません。
- 品質水準の維持:親事業者が指定する特定の原材料を使うことで、品質や安全基準を確保できる合理的な理由がある場合。
物の購入強制・役務の利用強制の禁止の目的
下請け事業者に、いわゆる自爆買いといった行為をさせている親事業者が存在したことがありました。
下請け事業者に、必要のないものまで、無理やり購入させることで、下請事業者が経済的損失を与える可能性があります。
そのため、下請事業者を保護するために禁止行為とされています。
⑦報復措置の禁止(第4条第1項第7号)
7 報復措置の禁止(第4条第1項第7号)
親事業者が,下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として,その下請事業者に対して取引数量を減じたり,取引を停止したり,その他不利益な取扱いをすると下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
報復措置とは、下請事業者が親事業者に対して不当な取引条件や違法行為について、公正取引委員会等の行政機関に相談や報告を行ったことに対して、親事業者が取引の条件を悪化させたり、契約を一方的に解消する行為を指します。
- 報復による取引の打ち切り:「不満を言うなら、もう取引はしない」として取引を終了させる、不利な条件に変更する、注文数量を減らす行為。親事業者の違法行為について苦情を申し立てたことを理由に、取引を一方的に打ち切る、不利な条件に変更する、注文数量を減らす行為等の行為。
報復措置の禁止の目的
下請事業者は、経済的に親事業者に依存している場合が多いため、親事業者による報復を恐れて問題を指摘できない状況が発生することがあります
このような圧力を排除し、下請事業者が公正な取引条件のもとで業務を行えるようにすることが報復措置の禁止の狙いです。
但し、別の理由をつけて(正当な理由という主張で)、発注数量を減少させたり、不利益を被る可能性がある点は注意が必要です。
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条第2項第1号)
8 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(第4条第2項第1号)
親事業者が下請事業者の給付に必要な半製品,部品,付属品又は原材料を有償で支給している場合に,下請事業者の責任に帰すべき理由がないのにこの有償支給原材料等を用いて製造又は修理した物品の下請代金の支払期日より早い時期に当該原材料等の対価を下請事業者に支払わせたり下請代金から控除(相殺)したりすると下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
有償支給原材料等の対価の早期決済とは、親事業者がこの有償支給原材料の代金を、納品前や早期に不当に回収することを指します。
以下の例が有償支給の早期決済に該当します。
- 納品前の有償支給原材料の代金請求:製品の製造が完了していない(納期前である)のに、「先に原材料の代金を支払ってほしい」と早期に代金を請求すること。
- 納品直後の不当な請求:納品して「すぐに支払いをしてほしい」と圧力をかけ、(製品の代金を受け取っていない中)早期に代金を請求すること。
有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止の目的
早期決済の禁止の目的は、下請事業者の資金繰りの負担を軽減することです。
下請事業者は、親事業者に納品した後にその代金を受け取る中、その前に有償支給原材料の代金を請求されると、資金繰りが悪化し、経済的な負担が大きくなってしまうため、禁止されています。
⑨割引困難な手形の交付の禁止(第4条第2項第2号)
9 割引困難な手形の交付の禁止(第4条第2項第2号)
親事業者は下請事業者に対し下請代金を手形で支払う場合,支払期日までに一般の金融機関で割り引くことが困難な手形を交付すると下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
手形サイトが120日を超える長期手形(繊維業の場合は90日を超える長期手形)を受けている場合は、割引困難な手形として違反に該当する可能性があるとされてきました。
しかし、2024年5月に下請法が改正され、60日を超える手形や電子記録債権の交付等は違反になりうるとなり、「120日(繊維は90日」から「60日」に短縮されました。
割引困難な手形の交付の禁止の目的
下請事業者が安定した資金繰りを維持できるようにすることです。
割引が困難な手形を受け取った場合、すぐに現金化できず、資金繰りが悪化することを防ぐことを目的としています。
⑩不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)
10 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第4条第2項第3号)
親事業者が,下請事業者に対して,自己のために金銭,役務その他の経済上の利益を提供させることにより,下請事業者の利益を不当に害すると下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
不当な経済上の利益の提供要請とは、親事業者がその立場を利用して、下請事業者に対して金銭や物品、サービスの提供を一方的に要求することを指します。
以下の例が該当します。
- 「(親事業者の)イベントに協賛金を出してほしい」「イベントの費用を一部、下請け事業者負担にしてほしい」と求める行為。
- 物品やサービスの提供要求:「関連会社の商品を購入してほしい」「特定のサービスを利用してほしい」として、取引とは無関係な商品やサービスの購入を強制する。
不当な経済上の利益の提供要請の禁止の目的
親事業者がその優越的な地位を利用して、下請事業者に不当な経済的負担を強いることを防ぐことです。特に中小企業や個人事業主などの下請事業者は、親事業者との取引に依存している場合が多いため、経済的な負担を強要されるとそれを拒むことが難しい状況に陥ることがあります。
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(第4条第2項第4号)
11 不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止(第4条第2項第4号)
親事業者が下請事業者に責任がないのに,発注の取消若しくは発注内容の変更を行い,又は受領後にやり直しをさせることにより,下請事業者の利益を不当に害すると下請法違反となります。
注:「公正取引委員会 親事業者の禁止行為」より
親事業者が下請事業者に依頼した製品やサービスの仕様や条件を、下請事業者に不利益をもたらす形で一方的に変更したり、やり直しを命じる行為を指します。
以下の場合が、該当します。
- 一方的な仕様変更:親事業者が契約後、正当な理由なく製品の仕様や納期を変更するように要求し、そのコストを下請事業者に負担させる行為。製品のデザインが完成した後に、「やっぱりデザインを変更してほしい」と一方的に要求し、追加のコストや労力に対して適切な補償を行わない。
- 不合理なやり直しの強制:提供した製品に欠陥や問題がないにもかかわらず、「顧客の要望が変わった」としてやり直しを要求し、そのための追加費用を支払わない。
不当な給付内容の変更及び不当なやり直しの禁止の目的
親事業者がその優越的地位を利用して、下請事業者に不当な負担を強いることを防ぐことです。
下請事業者が、親事業者からの一方的な変更等の要求に応じなければならない状況に陥ることを防ぎ、不当なコストが発生しないようにすることを目的としています。
特に、私自身も経験がありますが、受注生産や企画開発から受注している場合、仕様変更や納期変更等はしばしば経験してきました。その変更等にかかるコストを下請事業者負担となりがちなので、下請け事業者は、その都度、しっかり請求していきましょう。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
この記事では、価格交渉する前段階として、知っておきたい下請法の4つの義務と11の禁止行為について解説いたしました。
下請事業者の会社様も、まずはこのようなルールがあることをご認識いただくことが交渉の一歩と思います。