日本の繊維業界(アパレル縫製・ニット工場)や皮革業界(鞄など革製品工場)は、少子高齢化による人手不足や海外企業との競争激化といった課題に直面しています。
そのような事業環境下で、生産性向上やコスト削減が求められており、DXの推進はその鍵となる取り組みです。

この記事では、縫製工場や鞄工場のDX取り組み事例や将来予測について紹介いたします。

縫製工場や鞄工場がDX化を推進する目的

生産性向上 少子高齢化による労働力不足や人件費の上昇に対処するため、デジタル技術を導入して自動化や省力化を進める。
コスト削減 生地やエネルギーのロス・無駄を減らし、デジタル技術で効率的な資源管理を実現する。
品質向上 リアルタイムのデータ分析やAIを活用し、製品の不良を予防することで、品質管理を強化する。
柔軟な生産体制 小ロット生産やカスタマイズに対応するため、生産ラインを柔軟に変更できるデジタル化を進める。

DXの重要な要素の一つは、生産工程の自動化と生産管理のデジタル化です。
縫製工場や鞄工場では、従来手作業で行われていた生産スケジュールの管理、材料の在庫管理、作業進捗の確認などをデジタルツールでリアルタイムに把握・管理できるようにすることで、生産効率を大幅に向上させることができます。

2.生産工程の自動化

生産工程における自動化の取り組み事例として以下の内容が挙げられます。

(ア)IoT(モノのインターネット)機器

縫製工場内の設備をネットワーク化し、稼働状況やメンテナンスの必要性をリアルタイムで監視・管理するシステムを導入することが挙げられます。これにより、生産ラインの効率化が可能です。
例えば、センサー技術を活用して、機械の故障や異常を事前に検知し、計画的なメンテナンスを行うことでダウンタイムを減少させます。

取り組み事例①:
デジタル作業分析システムを導入し、カメラで熟練者の作業工程を撮影、AIを活用して作業者の動きを解析をする。
過去の生産データを分析して、効率の悪い部分を特定し改善する。
動画マニュアルを作成、新人教育や能力向上に役立てる仕組みを構築する。
作業効率をグラフで分析したり、同じ作業を作業者同士で比較検討することで、効果的なOJTを促し、能力向上に役立てる。

取り組み事例②:
ミシン同士をネットに繋ぎ、稼働状況や生産実績をクラウドで一元管理する。
ミシンの条件設定データを、パソコンで管理・設定変更できるようにすることで、ノウハウを蓄積し、生産性向上・品質向上に役立てる。

(イ)縫製ロボット

縫製工程の自動化は、労働力不足を解消し、安定した生産を実現するための重要な手段です。
近年では、縫製作業をロボットで自動化する技術が進歩しており、これにより生産性を大幅に向上させています。

縫製ロボットは、 特定の作業(ボタン付け、縫い合わせ、裁断など)を自動で行うロボットの導入が進んでいます。これにより、熟練した人手に頼らずに効率的な生産が可能となります。

(ウ)自動裁断機

CAD/CAM(コンピュータ支援設計/自動裁断機)システムを活用して、自動化・省力化を図り、手作業に依存しない高精度な生産が実現します。

自動裁断機は、精密さと速度の両立が求められる縫製業において、非常に有効です。

また、AI搭載のカメラ等で傷やよごれ等の初期不良を検知したり、シワ等を検知し補正することで不良率低減が実現します。

(エ)バーチャル試着・3Dモデリング

DXの一環として、企画デザイン段階において、3Dモデリング技術を導入し、商品開発する事例も増えています。
3Dモデリングを使用することで、実際にサンプルを作らずにバーチャル試着を行ったり、設計デザインの確認を行ったりすることができます。

デジタルプロトタイプの活用:

3Dモデリングソフトを使ってデジタル上で服のサンプルを作成し、フィッティングやデザインのチェックを行うことで、試作コストやリードタイムを削減します。

バーチャル試作システム:

消費者やバイヤーが、オンライン上でバーチャルに商品を試着できるようにする技術も普及しており、EC(電子商取引)サイトや店舗での導入が進んでいます。

3D CAD(コンピュータ支援設計)

衣類や革製品の3Dモデリングを可能にするCADソフトウェアは、デザイナーがデジタル上で生地の質感、動き、色合いなどをシミュレーションできるツールです。これにより、デザイナーはコンピュータ上でリアルなサンプルを作成し、実物を作る前に詳細な調整ができます。

コラボレーション・DtoC(Direct to Consumer)モデルの強化:

デジタルプラットフォームやバーチャルサンプルを活用して、デザイナー、縫製工場、ブランドが遠隔地からでもリアルタイムでデザインのフィードバックを共有し、迅速に製品化を進めることができます。昨今ではインフルエンサーや芸能人などがオリジナルブランドを立ち上げるケースもこの分類に挙げられます。特に、遠隔地同士でのやり取りは、バーチャルサンプルの使用は時間とコストの節約に大きく貢献します。

AIを用いた品質検査

画像認識技術:

AI(人工知能)を活用した画像認識技術を用いて、縫製品の外観検査を自動化します。カメラで製品を撮影し、シワや汚れ、縫製のズレなどの不良品を瞬時に検出することができます。

これにより、人手による検査に比べて正確性と効率が向上します。

取り組み事例①:AIが不良箇所検出:
製品が縫製ラインを通過する際に、カメラが自動的に画像を撮影し、AIが不良箇所をリアルタイムで検出。異常が見つかった場合は、ラインを停止し、即座に修正作業が行う。

取り組み事例②:機械学習による不良品の予測:
過去のデータを基に、不良品が発生するパターンを学習したAIが、不具合が起きやすい工程や条件を予測し、事前に対策を講じる。
また、AIを使った画像解析技術を利用して、縫製ラインでの製品品質を自動でチェック。これにより、目視検査の手間を省き、品質基準を一貫して保つことが可能になる。

3.生産管理・生産計画のデジタル化

クラウドベースの生産管理システム:

工場内の各工程をデジタルで管理するシステムを導入し、リアルタイムでの生産進捗状況や在庫管理を行います。これにより、遅延や在庫不足を防ぎ、迅速な対応が可能です。
また、デザイン企画、素材選定、生産計画、在庫管理、納品までの一連の工程を一元管理できるシステムもあります。

特にD2C(Direct to Consumer)ブランドの小ロットの生産やカスタムオーダーに対応したシステムをあり、納期の短縮、柔軟な生産計画、効率的な受発注管理などが可能です。

6. 人材育成と働き方改革

DXは、労働環境の改善にもつながります。

自動化技術の導入により、単純作業・危険を伴う作業が削減されることで、労働者はより付加価値の高い業務に集中できるようになります。

昨今は、働き方改革を国主導で推進しており、DXを推進することで、女性の社会復帰、柔軟なシフト体制、デジタルツールを活用したリモートワーク等、柔軟な働き方にも対応できます。

ただ単に、縫製工場や鞄工場が設備を導入するだけではなく、従業員のスキルアップや労働環境の改善を通じて、持続可能で柔軟な働き方を目指すことができます。

近年ではこれらの人材を育成することを目的とした厚生労働省の助成金等もあります。

DX促進に関する補助金・優遇税制の活用

中小企業が、DX推進に関するコンサルティング費用を一部補助する国や自治体の助成金や補助金を活用できる場合があります。

上記で記載した厚生労働省の人材育成関連の助成金のほか、経済産業省の各種補助金が挙げられます。
具体的には、ものづくり補助金、省力化補助金、IT導入補助金、事業承継引継ぎ補助金などが挙げられます。

特に、中小企業にとって設備投資は高額になるため、これらの補助金を利用することでコスト負担を軽減させることができます。

まとめ

縫製工場や鞄工場におけるDXは、生産効率の向上、コスト削減、品質管理の強化を目的として進められており、特に自動化技術やAI、IoTを活用した取り組みが顕著です。これにより、日本国内外の縫製業界は変革を遂げつつあり、労働力不足や国際競争に対応するための重要な手段となっています。