事業継続力強化計画の認定・策定メリットの記事のタイトル画像

近年、日本では頻発する地震、台風、大雨といった自然災害や、新型コロナウィルスのようなパンデミックの発生が中小企業の経営に深刻な影響を与えています。さらに、サイバー攻撃やテロなど新しいリスクも企業にとって無視できない課題となっています。こうした状況下で、中小企業がリスクに備える力を高める必要性が高まりました。

中小企業は、大企業と比較して資金や人材の面で脆弱性が高く、リスク対応が遅れがちであるため、政府(中小企業庁)が支援策として2019年(令和元年)7月に「事業継続力強化計画」の制度を開始しました。

事業継続力強化計画の認定対象となる中小企業者

中小企業庁は業種ごとに企業規模が異なるため、資本金や従業員数の基準を柔軟に設定しています。製造業や運輸業のように資本や人員が多く必要な業種と、小売業やサービス業など規模が小さい業種で基準が異なります。下記の資本金の上限と従業員の上限のどちらか一方に該当すれば認定対象となります。

業種資本金の上限従業員数の上限
製造業、建設業、運輸業3億円以下300人以下
卸売業1億円以下100人以下
小売業5,000万円以下50人以下
サービス業5,000万円以下100人以下(※一部業種を除く)
ゴム製品製造業3億円以下900人以下
ソフトウェア業、情報処理業3億円以下300人以下
宿泊業、娯楽業5,000万円以下200人以下

事業継続力強化計画の認定を受けるメリット

メリット①:金融支援を受けられる

支援内容詳細
日本政策金融公庫による低利融資(BCP資金)
  • 基準利率から最大0.9%引下げ
  • 貸付限度額:設備資金最大4億円、全体で7億2,000万円
  • 貸付期間:設備資金20年以内、長期運転資金7年以内
    ※別途、審査が有。
信用保証協会の特例措置
  • 通常枠に加えて別枠の追加保証や保証枠の拡大。
  • 新事業開拓保険:保証枠が2億円→3億円
  • 海外投資関係保険:保証枠が2億円→4億円
スタンドバイ・クレジット
  • 日本政策金融公庫が債務保証。
  • 保証限度額:1法人あたり最大4億5,000万円
  • 融資期間:1~5年
中小企業投資育成株式会社法の特例
  • 資本金3億円を超える企業でも投資対象に。

メリット②:税制優遇される

事業継続力強化計画の認定を受けた企業は、「中小企業防災・減災投資促進税制」の対象となり、防災や減災設備に関連する税制優遇を受けられます。具体的には、対象となる防災や減災設備関連設備に対して以下のような特別償却や税額控除が適用されます。

特別償却率

適用期間特別償却率
令和7年3月31日以前に取得した場合18%
令和7年4月1日以後に取得した場合16%

対象設備

設備カテゴリ具体例取得価額要件
機械および装置自家発電設備、排水ポンプ、耐震装置100万円以上
器具および備品サーモグラフィ装置(感染症対応)、避難用設備30万円以上
建物附属設備防水シャッター、照明設備、貯水タンク60万円以上

メリット③:公的支援制度(補助金)の加点措置を受けられる

事業継続力強化計画を策定し認定を受けることで、ものづくり補助金やIT導入補助金、事業再構築補助金などの申請時に加点が適用され、採択率が向上します。これらの補助金は、中小企業が設備投資やデジタル化、新規事業展開を行う際の重要な資金源となるもので、採択されるかどうかが事業の成否を左右することもあります。認定を受けることで申請の成功率が高まります。

メリット④:損害保険料の割引

事業継続力強化計画の認定を受けた事業者は、リスク管理の実態に応じて損害保険料の割引を受けることができます。例えば、あいおいニッセイ同和損害保険やAIG損害保険、東京海上日動火災保険などの主要保険会社が提供する企業財産保険や業務災害補償保険では、過去の保険金支払い実績やリスク管理体制を考慮し、保険料の割引が個別に検討されます。これにより、中小企業はコストを削減しつつ、リスクに備えた事業運営を進めることができます。詳細は各保険会社の公式サイトで確認可能です。

事業継続力強化計画を策定するメリット

1. 災害時の対応力が向上する

事業継続力強化計画を策定することで、災害や危機的状況が発生した際の対応力を大幅に向上させることができます。具体的には、リスクの洗い出し、緊急時の行動指針、従業員の役割分担を明確化することで、混乱を最小限に抑え、迅速かつ適切に対応できる体制を構築できます。また、サプライチェーンの途絶や生産設備の被害など、企業活動への影響を最小化する手段をあらかじめ講じることで、事業の早期復旧が可能になります。

2. 取引先や顧客からの信頼性が向上する

事業継続力強化計画の策定は、企業の危機管理能力を示すものであり、取引先や顧客からの信頼性を向上させる重要な要素です。計画を策定することで、「万が一の場合でも事業を継続できる企業」として評価され、取引関係の維持や新規顧客の獲得につながります。また、業界や地域での競争優位性を高めることにも寄与します。信頼性の向上は、企業ブランド価値の強化に直結する重要な効果と言えます。

3. 従業員の安全確保と士気向上が向上する

事業継続力強化計画の策定により、従業員の安全を確保するための体制が整備されます。災害時の避難経路、緊急連絡網、復旧プロセスを明確にすることで、従業員の不安を軽減し、安心して働ける環境を提供できます。また、事業継続力強化計画の策定過程で従業員が自社のリスク管理に参加することで、会社への信頼感や士気が向上します。これにより、従業員の定着率が向上し、組織全体の生産性が高まることが期待されます。

事業継続力強化計画の策定の流れ(概要)

フェーズ 内容 具体的な対策
事前対策 災害発生前にリスクを評価し、必要な備えを行う。
  • リスク評価: ハザードマップやリスク分析で災害の可能性を評価。
  • 備蓄と設備: 非常用発電機や防災シャッターの準備。
  • 訓練と教育: 定期的な訓練で従業員の対応力を向上。
初動対応 災害発生直後に従業員の安全確保と被害の最小化を図る。
  • 安全確保: 避難ルートの確認と周知、安否確認体制の整備。
  • 緊急対応組織の立ち上げ: 災害対策本部を迅速に構築。
  • 情報共有: 被害状況の把握と関係者への情報提供。
復旧対応 事業を早期に復旧し、通常運営へ移行する。
  • 重要業務の優先順位設定: 中核事業を特定し、その復旧を最優先。
  • 復旧スケジュールの策定: 被害状況に応じた段階的な復旧計画を設定。
  • 外部支援の活用: 信用保証協会や保険制度の利用で資金調達を支援。

申請方法

事業継続力強化計画の申請は、令和6年4月からは単独型・連携型ともに原則電子申請のみとなります。申請から認定までの標準処理期間は約45日です。申請には、GビズIDアカウント(gBizIDプライムまたはgBizIDメンバー)が必要です。電子申請システムでは、専用の申請様式は不要で、直接入力する形式となっています。計画策定の手順や記載例については、「事業継続力強化計画策定の手引き」を参照してください。

さいごに

事業継続力強化計画は、中小企業が自然災害やリスクに備えるための重要な制度であり、認定を受けることで税制優遇や金融支援、補助金加点、保険料割引といった多くのメリットを享受できます。また、BCP策定自体も災害時の対応力向上や信頼性向上、従業員の安全確保に寄与します。電子申請が基本であるため、GビズIDの早期取得が鍵となります。計画の策定と実行を通じて、リスクに強い事業基盤を構築し、持続可能な経営を目指すことが大切です。